100年ふくしま。コラム

いま、ここ、仏教界隈。 大童法慧

仏教の教えといま、ここでのお話

2019/08/30
001 おたがいさま

飯田橋の東京逓信病院で白内障の手術をした。二泊三日だ。

同じ日程の九二歳の老婦人と仲良くなった。
彼女は「東京オリンピックをクリアに見たい」がために手術を決断したという。そして、はにかんだ笑みを浮かべながら「あと何年生きるか分からないけどね」と付け加えた。
そこで、私はわざと惚(とぼ)けてみた。
「あと何年かじゃなくて、あと何日かの間違いじゃないの?」
彼女はやんわり笑って「それは、おたがいさまよ」と、私の肩を軽く叩いた。私は「参りました」と頭を下げた。

確かにそうだ。
私たちの命に保証はない。ある日、病を告げられることもあれば、事故に巻き込まれることもある。私の身体ではあるのだが、私の思い通りにはならない。
生老病死は、私たちが頭の中で作り上げたものだけではないのだ。そこには人智の及ばない「いのち」の世界が開かれている。
それを、ある人は神の恵みと言い、ある人は仏のはたらきと手をあわす。

退院した日の喫茶店。よく見えるようになった私たちは「これからは目に映る事柄を嫌わないで、愛おしもう!」と再会を誓った。

作 者
大童法慧


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