100年ふくしま。コラム

いま、ここ、仏教界隈。 大童法慧

仏教の教えといま、ここでのお話

2021/05/14
009 後の祭り

六十歳で急逝した父の葬儀。弔辞の時、祭壇を前にして娘さんが絶叫した。

「お父さん、ごめんなさい!」

嗚咽を抑えて、彼女は遺影に向かって語り始めた。それは・・・中学生の頃から、父親の意見に反発する事が増え、顔を見るのも嫌になったこと。高校を卒業し、逃げるように仙台に就職したとのこと。以後、帰省はせず、父親には連絡をしなかったとのこと。訳あってシングルマザーとして出産し、子供を連れて実家に戻ったこと。再び一緒に暮らし始めても、父親を避けていたこと。

彼女は涙に声を詰まらせながら、「でも、いつか必ずお父さんとゆっくりと話をしたり、旅行に行ったりできると思ってた。そして、ありがとう、と伝えたいと思ってた」と語り、「それができなくなって、本当にごめんなさい」と頭を下げた。

吉川英治氏は「仏壇は後の祭りをするところ」と吐いた。今思えば、親の言うことを聞いとけばよかった。もう少し優しい言葉をかけておけばよかった。あそこに一緒に行っておけばよかった。そう、故人を偲ぶ時間は心が揺さぶられる時間でもある。

してしまったことは、なかったことにはできない。でも、「後の祭り」ができるのは、その人が大切な人だから。

作 者
大童法慧


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